きっかけはいつだって不意打ちで、
思わぬところから現れる。
数十年前のとある物語。
そして、
それは今に繋がる物語。
4/意外な過去
私、志貴に殺されたのよ。
目の前の女は笑顔でそんなことをいった。
無邪気に笑うその表情は、
しかし、その台詞には似つかわしくない。
「・・・殺された?」
殺された。
それはつまり死んだということだ。
生きているのは、
今ここに存在するのはおかしい。
―――リビングデッド、生きる屍体。
『殺されて』そう成った?
いや、この女の力は百年クラスの死徒をゆうに超えている。
それはないだろう。
私はそれの意味するものを考える。
この女はヒトではない。
なら、普通のことでは死なないだろう。
だが、それは単に寿命がないというだけのこと。
殺されれば死に、
そして、塵に還える。
普通の死徒なら―――
「ええ、玄関先であっという間にナイフで十七つに切断されたの、驚いたわよ。」
その殺害方法。
それをしたのが曾祖父というのも人柄に似合わないようにみえて意外ではあったが、
まあ、そこは曾祖父も七夜の者、意外ではあっても不思議ではない。
それよりも―――
自分が殺されたときのことだっていうのに、
なんでもないことのように話す女の方が私には不思議だ。
「そういえば、志貴も今のあなたみたいに後をつけて来てた。やっぱり血なのかな?」
クスクスと笑って女は私の顔を覗き込む。
さっきまでの戦闘は既に頭にないようだ。
まったく、どうしてやろうかと思う。
「あなた―――」
「あ、まだ自己紹介してなかったね。わたしはアルクェイド───うん、長い名前だからアルクェイドだけでいいわ。真祖って区分けされる吸血鬼なんだけど、わかるよね?」
私の発した言葉を遮って、女―――アルクェイドはいった。
さっきから相手のペースに飲まれっぱなしで、
ホント調子が狂う―――
「―――って、真祖ですって!?」
「え、そうだけど・・・なに?」
―――真祖
なるほど、聞いたことがある。
真祖アルクェイド・ブリュンスタッド、
真祖の王族、眠れる白の吸血姫。
驚いた、
というより自分に呆れる。
確かにケタ外れに強い力を感じた。
だがしかし、よもや真祖に戦いを挑んでいたとは・・・
知らず笑いが漏れる。
『真祖には手を出すな。』
曾祖父の残した言葉だ。
私はそれを常に心に置いて生きて来た。
これまではそれを守ってきたつもりだし、
これからも守っていくつもりだった。
「・・・姫流? どうしたの?」
それが、
昨日の実家での話、真祖ディ・ダークネス、闇色の支配者。
そして今、目の前にいるアルクェイド。
ここ数日、どうやら向こうの方から私に関係を持ちかけているようだ。
顔を上げてその当事者をみると、
アルクェイドは首を傾げてこっちを見ていた。
なになに?と目がいっている。
まったく、こんなことで悩んでいるのは馬鹿みたいだ。
どうやったって私には避けられない運命なのだ、きっと。
なら、トコトンまで付き合ってあげる。
「あ、呼び捨てにしちゃいけなかったかな?」
ふと思ったのか急に困ったような顔をして、アルクェイドはそんなことをいった。
私はそれに別に、と返し話しを再開する。
「アルクェイド、聞いてもいい?」
「え、なになに?」
私が話しかけたことが嬉しいのか、アルクェイドは満面の笑みを浮かべて聞き返す。
「殺されたのに生きてるのは・・・まあ、真祖だっていうしわからないこともないけど。」
うんうんと頷くアルクェイド。
少しため息を吐きたくなる。
「そんな相手と友達とか恋人って・・・普通、逆じゃないの?」
真祖なんて吸血鬼を相手に普通なんて常識を持ちかけるのもどこかおかしいが私はそんなことを聞いてみた。
「そうね、まあ普通だったら殺されたら殺し返すっていうのがセオリーだけど・・・うん、志貴は特別だからかな。」
「なに? それ・・・」
よくわかんない、そういって笑うアルクェイドはとても吸血鬼には見えない。
きっと昔、曾祖父も同じように感じたんだろうと思う。
「とにかく、それがきっかけで志貴と一緒に闘ったりしたんだけど・・・」
・・・・・
―――驚いた。
何が驚いたかって、
アルクェイドが話したのは、
今から数十年前、この街で起きた連続猟奇事件の裏側だった。
曰く、その被害者達は体内の血液が著しく失われ死んでいた。
真相はある一人の吸血鬼、ミハイル・ロア・バルダムヨンとその死者達。
ロアを死徒にしたのがアルクェイドで、
その転生先が曾祖母、遠野秋葉の実兄、遠野四季だということ。
曾祖父、遠野志貴と転生先である遠野四季の浅からぬ因縁。
そして、ロアを追う二人の女、
白い吸血姫、アルクェイド。
埋葬機関の七位、『弓』のシエル。
共通する目的は、ロアの殲滅。
そんな最中、あるホテルでの大量行方不明事件。
現場には大量の血痕と動物の痕跡。
アルクェイドを狙った死徒二十七祖の一つ、ネロ・カオス。
二つの死徒、
ネロとロアを殺したのが曾祖父、遠野志貴だということ。
かたや、転生無限者たる『アカシャの蛇』
かたや、一にして666のケモノ『混沌』
およそ『殺す』に難いこれらの死徒を完全に『殺し』た曾祖父。
そしてその『直視の魔眼』
普通ならバカバカしいと一蹴されるだろう話だが、
非日常こそが日常の私にとっては取りたて騒ぐようなことではない。
―――気がつくとニ時間近くが経っていた。
アルクェイドは話をする、ということにあまり慣れていないのか、
内容に比べ多少時間が長かった気がする。
それでも、アルクェイドの話は初めて聞くことも多く、
私は相槌を打ちながらその話を聞いていた。
「・・・と、いうわけ。一週間前に私が目覚めた時にはもう志貴は・・・」
ひとしきり話終えたアルクェイドは最期に辛そうな顔をしてそう言った。
「あはは、志貴は人間だし仕方ないんだけどね。」
傍からみても無理に笑っているとわかる。
さっきまでの笑顔を見ているだけに痛々しい。
「そんなことがあったなんて―――」
私は腕を組んで考える。
「志貴おじいちゃんがね・・・正直驚いたけど。」
「けど?」
「まあ、許容範囲かなって。」
「許容範囲って・・・何が?」
「今のあなたの話しが信じられるってことよ。」
「姫流ってば信じてなかったのっ!?」
驚いたという風にアルクェイドはいって、
むー、と不満げに私を見る。
「・・・信じるっていってるんだけど?」
「え、そう?」
「・・・はぁ、もういいわよ。」
ホント調子が狂う。
そのうち慣れるかな、なんてことを考えながら私はため息を吐いた。
「あ、そうだ。ねえ姫流、私も一つ聞いてもいい? あなた、埋葬機関に属してるの?」
そういったアルクェイドの眼が一瞬鋭くなるのを私は見逃さない。
きっと埋葬機関を敵視してのものだろう。
まあ、当然といえば当然。
「いいえ、そんなことはないけど何故?」
「え、さっきあなたがつかった技が、鉄甲作用だった、から・・・」
質問で返されるとは思ってなかったのか、
そういったアルクェイドは語尾が弱くなっていた。
小声で、ちがった?なんていっている。
「テッコウサヨウって、これ―――?」
そういって私は錐を一本、壁に向かって飛ばす。
―――ドン
突き刺さった錐が壁に大きな亀裂を作る。
私の十八番の攻撃手段。
志貴おじいちゃんが高校の先輩から教えてもらったという技、
ああ、そういえばそんな名前だったかもしれない。
技の名前なんて普段から気にしないから忘れていたのだ。
「うん、それそれ。どこで覚えたの?」
「どこでって、志貴おじいちゃんから教えてもらったんだけど・・・」
「え、志貴?」
なんで?とアルクェイドは頭を捻っている。
「高校の先輩に教えてもらったとかっていってたわよ。」
「あ、それじゃシエルが・・・」
納得したのかアルクェイドはひとりウンウンと頷く。
「もういい?」
「あ、うん。姫流はこれからどうするの?」
「どうするって、あなたに会わなければ帰ってたんだけど・・・そうね、アルクェイドちょっとついて来る?」
少し考えて私はアルクェイドに聞いてみる。
まあ、ことのついで、もう少しくらい寄り道したって大差ない。
ちょうどいい機会、久しく行っていないあの場所へ行こうと思ったのだ。
遠野の屋敷へ―――
意外な過去/了
02/06/07 0:54脱稿