吸血鬼、という存在が在る。
ヒトのカタチをした魔。
ヒトの血を吸う鬼。
そして、
壊れたシステムのなれの果て。
2/繰返す歴史
その晩を実家で過ごした私は一睡もすることなく朝を迎えた。
一日や二日の徹夜は慣れていたがその日の朝日はとても眩しく、そして小さく見えた。
それはきっと私が昨日までの私と違うから、
それもある種、成長というものだろう。
昨晩、夕飯後にもう一度詳しい説明を聞いた。
「姫流、強制はしない、よく考えろ。そして自分で決めるんだ。」
最後にそう言った父はひどく厳しい眼をして、私を見据える。
私はそれに頷いて部屋に戻った。
自分に流れる魔なる血、決して逃れることの出来ない呪縛。
生きていく以上、いつかは向い合わねばならない問題。
七夜の宿命。
眠れぬ夜を過ごした私は夜が空ける頃にはひとつ結論を出していた。
私は魔を狩る魔。
朱鷺色の魔狩りと呼ばれる者。
なら、自身に棲む魔さえ狩ってみせる。
逃れられぬ呪縛なら自ら断ち切れば良い。
そうして、真祖狩りの覚悟を決めた私は朝イチで帰ることにした。
今から帰れば昼前には街まで着くだろう。
「―――と、その前に貰っていかなきゃない物があった。」
玄関へ向かっていた足を反転させ書斎へ向かう。
「えーと、どこだったかな・・・」
そう呟いて私は棚を漁る。
なかなか探し出せずにイライラし始めた私は、
ふと、あることを思いついた。
父さんはアレとしかいっていない。
―――なら、好きなものを持って行こう。
その考えと同時に棚から離れた、たしか机の中にそれはある。
つかつかと机に歩み寄ると引出しを下から順に空けて行く。
一番上の引き出しに鍵が掛かっていた。
きっとここに入っている。
だから、鍵を壊して開けて見ることにした。
「―――あった。」
思わず頬が緩みそうになる。
5センチ位の角の欠片。
私はを手に取り笑みを浮かべる。
数秒それに魅入り、
それからポケットに放り込んで帰ることにした。
うっすらと朝日の差し込む廊下を歩く。
昼夜を問わず基本的にうす暗いのが特徴で、
歩きなれた廊下は目を閉じたって支障はない。
何も考えずに玄関に着いて、靴を履きながら横を見た。
メモ紙とペンを見つけ、私は一筆書いていくことにする。
「えーと、昨日いっていたアレ貰っていきます。姫流・・・と」
紙を柱に当て錐を突き立ててから玄関へ出る。
足早に山を下り、昨日と逆の手順を踏んで街まで戻った。
・・・・・
そうして、街に着いたのは昼少し前、
朝食を抜いていた私は適当な店で食事を摂ることにした。
少し迷った末入ったのは、駅前にあるファーストフード店。
カウンターで定番のセットメニューを注文すると、一分とたたずにそれは出された。
空腹時にはこの手軽さが丁度良い。
店内を見まわして空席を見つけ、トレイを持って移動する。
一人窓際の席に座った私は、平日の街並を眺めながらそれを食べる。
正直美味いといえないが許せないほど不味くもない。
私は空腹を満たすため、黙々とそれを平らげていく。
時刻は丁度十二時を回ったところだ。
私は最後のポテトをかじりながら午後なにをするかを考えてみる。
学校に行こうか、それとも―――
「うん、たまには街をぶらつくのも悪くないか。」
いって午後もサボることを決めた私は店を出た。
一睡もしていないのだからきっと授業をまともに受けられるとは思わないし。
午後だけ出たってあまり意味はないと思う。
まあ、出席日数は足りているのだから問題ない。
というわけで、私は久しく行っていない公園に向かった。
噴水のある広い公園。
ふとした時に発見した公園で気に入っているのだが、
アパートとは駅を挟んで正反対になるのであまり訪れる機会がなかったのだ。
ここからなら二十分も歩けば着くだろう。
のんびりと周りを見まわしながら散歩を楽しむ。
気がつくと公園を通り過ぎていて、
自分に呆れながら道を戻った。
久しぶりの公園のベンチに座ってのんびりと日向ぼっこをする。
空は晴れ渡り雲一つない。
適度な風は心地良く、座っているだけで眠りに誘われる。
広い広場に噴水、回りを覆う木々。
まあ、なんというか平和だなと思う。
私のような仕事をしている者には、
この平和さが眩しく、本当に救われる。
そんなとき、ふと―――
なにげなく。
本当になにげなく、視線を下ろしただけだなのに、視界が凍った。
───ドクン。
日の光に栄える、金の髪と赤い瞳。
白い肌、白い服。
白い、キケンな女。
───どくん。
脈拍がはねあがる。
静脈と動脈が活性化する。
神経に次々と過電圧がかかり、脊髄に響くカラダの暴れ。
七夜の血が騒ぎだす。
───ドクン。
園内を一人歩いている女性はただ、美しい。
―――――――――っ!
意識が遠く、
くらり、と意識が落ちかける。
―――どくん。
抗う間もなく、
無理矢理、
―――スイッチが入った。
頭の中にはある一つの命令が、
繰り返される言葉はただ一つ。
彼女を。
あの女を。
私は、このまま─────
―――それではダメだ。
『く、くく、あははははっ』
頭に響く笑い声。
吐き気がする。
―――スイッチは、私が、
呼吸ができない。
息がくるしい。
――無理矢理はだめだ。
立ち上がり、
女に歩み寄る。
笑い声。
―――血に飲まれるな。
ノドがアツイ。
わくわくする。
息が出来ない。
―――理性を、
錐を取り出す。
吐き気がする。
響く、頭に。
―――血を抑えろ!!
「っは、はっはぁはあ・・・」
汗が噴出す。
呼吸は荒い。
無理矢理七夜の血を抑え込んだ私はその場に膝をつく。
地面についた手に汗が落ちる。
「はぁ、はぁ・・・」
呼吸を整えながら、私は顔を上げた。
公園を出て行く白い女。
ふらつきながらも私は後をつける。
「はあ、はあ・・・」
アレは間違いなくヒトじゃない。
さっきの昂ぶりは尋常じゃなかった、
私の中の七夜の血がそれを告げる。
「ヒトじゃないなら、魔であるなら。」
それも過去にないくらい、激しく。
そして、強力な魔。
都合のいいことに女は路地裏に入っていく。
少し距離を置いて私も続く。
「見掛けたなら、狩らなくちゃね―――」
それが七夜の血。
私の仕事。
いって私は、今度は自分で、
スイッチを入れた―――
繰返す歴史/了
02/04/19 15:21脱稿
02/04/28 16:30改訂