魔狩る朱鷺色 18/夜明け、朝V
夜が終わり、朝が来る。
臨む場所は遠くて近い―――


18/夜明け、朝V


「・・・なるほど、そういうことか。」

呟いて、銀迩は部屋の隅へと視線を移した。
そこにはがっくしと項垂れ、正座するアルクェイドの姿がある。

「信じられないけど、―――信じるしかない、かな」

逃げようとするアルクェイドを捕まえて、説教を終えたのが数分前。
私はアルクェイドに正座を厳命し、銀迩に軽く現状の説明をした。
まさか真祖が、と銀迩は思っていたようだけど、
現にこうして正座をさせられたアルクェイドを目の当たりにしているのだ。
信じないわけにはいかないだろう。

部屋の中にいるのは三人。
私がアルクェイドに説教をしている間に銀迩を診ていた琥珀さんは、テキパキと診察を終えて、

「それじゃあ、私は夜の見回りにいってきますねー」

と、言い残し気を利かせて部屋から出て行った。
まあ、隠したところで今更な気もするし、
彼女のこと、どうせ話は筒抜けだとは思うが、それでも多少は話しやすい。

「で、あなたの方は?」

大雑把にだけどこっちの説明を終えた私は、今度はそっちの番、と銀迩に尋ねる。

「え、何が?」
「何がって、そんな怪我してまで、何のためにオレンジと戦ってたのよ、あなた?」
「あ、心配して・・・」
「―――ないわよ。」

アルクェイドに対する警戒が解けたのか、銀迩はいつもの調子に戻っていた。
私はそれを最後まで言わせず否定する。

「冷たいなぁ・・・」

銀迩は軽く肩を竦めてぼやく。
そうして一度目を瞑って、数秒。
銀迩は話を始めた。

「オレンジ―――青崎橙子はね、ディ直系の死徒なんだ。」

一瞬、銀迩の眼に冷たい色が浮かぶ。

「成ったのは数十年前だけど、能力は既に二十七祖クラスだと思う。先の戦闘では使わなかったけど、たぶん固有結界だって使えるんじゃないかな・・・」

死徒二十七祖って知ってるよね、と銀迩が訊いた。
私はそれに頷いて、先を促す。

「アルクェイド・ブリュンスタッド―――過去にキミが蛇を追えたように、」

ピクリ、とアルクェイドの肩が動く。
蛇―――ロアとかいう死徒のことか、数日前のアルクェイドの話を思い出す。
アルクェイドが唯一犯した過ち。
真祖の姫、唯一の眷属。

「死徒にも親となる吸血鬼の位置を感じることが出来るらしくてね、ディの居場所を訊きにいったんだよ。それから戦ってたのは、」

そこで一拍。

「―――ディの眷属、その全てを殲滅するためだ。」

冷たい声。
ディのことを話している時、銀迩の雰囲気は冷たい色を帯びる。
普段の軟派さも、あるいはそれを隠す仮面なのかもしれないと思う。

「・・・まぁ、どっちも思うように行かなかったんだけどね。」

骨折り損の草臥れ儲けってところかな、とつけ加えた銀迩は既にいつもの銀迩に戻っている。

・・・私の考え過ぎかな。
と、そこでふと気付いた。

「銀迩、あなたどうして、ディを?」

そう、私はまだ銀迩から依頼の理由を聞いていなかったのだ。

「ん、いってなかったっけ? 協会からディの始末を依頼されたんだよ。利害が一致したから受けたけど、どうにも俺一人じゃ旗色が悪くてね、姫流ちゃんに協力を頼んだってわけ。」

当然のことのように銀迩はいう。
教会。いや、協会か・・・
魔女である自分は協会寄りだと最初に言っていたのを思い出す。
ディが襲うのは魔術師だけ、つまりそれは協会寄りの人間ということ。
魔法まで使うという危険な相手に、わざわざ教会が動くわけもない。

「―――忘れてた。銀迩、あなたディが魔法を使うなんて一言も言わなかったじゃない!」

思い出した。
先の夜は戦闘をしたり、見つけた相手が気を失っていたりで、うやむやになっていたけど。
私はこの男に文句をいうつもりだったのだ。

「え、?」
「え、じゃないわよ。あなたね、依頼をするなら情報は全部渡しなさいよ。」

もちろん魔術師の魔術を知識として取り込んでいるのだから、目指す場所は同じだろう。
そもそも魔法というものに至るのは並大抵のことではなく、だからこそ楽観視していたし、
協会にも教会にも属さない私が知っている情報は限られる。
ディが魔法に辿り着いている。
確証こそないが、その確立の高さはアルクェイドから聞くまで知らなかったのだ。
戦闘において情報不足は致命的な要素足りうるし、だからこそ可能な限り情報は持っておく必要があるのだ。

「それになに、ディの居場所を訊きにいったって。あなた相手の居場所も知らずに私に依頼したわけ?」

腕を組んで、銀迩を睨みつける。

「いや、まあ、その通りと言えばその通りだけど・・・」

頭を掻いて銀迩は口篭もる。
図星だったのだろう。

「―――呆れた。」
「あ、でも日本にいるのは間違いない。陸続き、本州のどこかにいるのは確かなはずだよ。」

苦し紛れの銀迩のその言葉は、さらに私を呆れさせる。

「あのね、日本っていったって、対象一人探すには広すぎるわよ。探査、調査は私は専門外よ。」

まあ、心当たりがないわけじゃないけど、と心の中で呟いて、
隅でヘコんでいるアルクェイドに目を向けた。
ブツブツいいながらいいながら正座をしているその姿には、
王族の威厳やお姫さまの気品なんて微塵も感じられないけど、
仮にも最強と謳われる真祖なのだ、目星さえつけば探せないこともないだろう・・・と思う。

「―――アルクェイド」
「も、もうしないってば・・・」

説教の続きと勘違いしたのか、上目づかいにアルクェイドはいう。
これが真祖の姫だとは誰も思わないだろう。
銀迩が信じられないというのも頷ける。

「そうじゃなくて・・・あなた、話聞いてた?」
「ん、少しだけ、ロアがどうしたとか・・・あっ、ち、ちがうのよ? ちゃんと反省もしてたんだから・・・」

慌てて弁明するアルクェイド。
少しお灸を据えてやろうと思っただけなのだが、随分効果があったみたい。
・・・そんなに食事抜きが嫌なのだろうか?

「もう、わかったわよ。さっきのは許してあげる。」

その言葉を聞いたアルクェイドは、予想通り笑顔になった。
一喜一憂といった感じで実に変化に富んでいる。
まあ、それももう慣れた。
アルクェイドに会ってから4日、昼夜を問わず纏わりつかれてはそれも当然だろう。

「そんなことより、ディが日本に居るみたいなんだけど、探れない?」
「え、日本に居るの?」

本当に話を聞いていなかったのか、驚いた顔でアルクェイドはホントに、と訊く。
私は銀迩に目を向けて彼が頷くのを確認する。

「・・・ええ、そうみたい。」

曖昧に答えて、むー、と考え込んでいるアルクェイドの言葉を待つ。

「うーん、一応探ってみるけど、難しいんじゃないかな、」

正座のまま、口元に手を当ててアルクェイドはいった。

「・・・どうしてよ?」
「ほら、この間わたし、空想具現化使ったでしょ? たぶんアレでわたしの存在に気付いてるはずだから、本気で隠れられたらちょっと見つけられないわね・・・」

ディがほんとに日本にいるならだけどね、とアルクェイド付け加えた。

「・・・そう、」

呟いて、私はちょっと考える。
アルクェイドにも見つけられないとなると、少し厄介だ。
やっぱり教会とコンタクトを取るのが無難だろうか・・・
少々気が重い。

「まあ、他ならぬ姫流の頼みだし探ってみるわよ。」

と、笑顔でいったアルクェイドは思い出したように続ける。

「あ、でも範囲が広すぎるから、満月の夜じゃないと・・・」

能力を最大限活かせる月の夜、か・・・

「満月・・・それじゃあ明後日ね、頼むわよ。」
「ん、おっけー。任せといて」

そういってアルクェイドは立ち上がり―――転んだ。

「あ、あれ―――?」
「どうしたのよ?」

両手をついて四つん這いになったアルクェイドはきょとんとした表情で私を見上げる。

「わかんない。何か足がビリビリするんだけど―――」

ため息を吐いて、窓に目を向ける。
ガラスの向う、空は淡いグラデーションで朝の訪れを知らせていた。



夜明け、朝V/了
2003/02/14 22:08脱稿


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