「・・・ええ、そう。・・・ちょっとね、・・・うん。
・・・三日でなんとかして欲しいんだけど。・・・そう。
・・・ええ、わかった。それじゃ、また」
―――ピッ
16/夜明け、朝T
「姫流ー、起きたよーっ!」
ドタバタと廊下を走る音に続いて、派手な音を立ててドアが開いたと同時、そんな大声で私は起された。
カーテンに遮られるべき朝の光も、朝を知らせる鳥の囀りも聞こえず、私は目を擦りながら時計をみる。
時刻は3時少し過ぎ。
草木も眠る丑三つ時もとうに過ぎている。白装束にわら人形と五寸釘を装備した人も眠りにつく時間、もちろん私だって寝る時間である。
無礼な深夜の来訪者に目もくれず、私はそのままベットに埋まってシーツを被る。
「・・・おやすみ」
「ちょ、姫流、起きてってば、起きたんだって!」
深夜だと言うのに底抜けに明るい声で意味のわからないことをいいながら、ゆさゆさと揺すって人の眠りを妨げているのはアルクェイド・ブリュンスタッド。
流石は吸血鬼である、夜ほど元気がいい。
もっとも、この吸血鬼は昼夜を問わず騒がしいのだけど。
まあ、そんなことはどうでもいい。私は寝るのだ・・・
「ほら、姫流、起きてって!」
しばらくしてベットの鳴る音が、ゆさゆさからギシギシに変わり始めた頃、無視を決め込んで眠りに戻ろうとしていた私は、シーツの中で眉を寄せて小さく唸った。
ばか女。
このままではベッドが壊れるのは時間の問題だ。
自分から起きるか、ベッドが壊れて起きるかの二択。
どっちにしたって起きる以外の結果がないのならもちろん前者を選ぶ。
「・・・なに?」
私は不機嫌な顔でアルクェイドをジロリと睨みながら、手探りでサイドテーブルにあるライトのスイッチを探す。
部屋の中はカーテンから漏れる月明かりだけで少し薄暗い。
「だから、起きたっていってるでしょ?」
寝起きで頭が回っていないのか、アルクェイドの言うことは不可解だ。
「それなのに姫流ってば起きようとしないんだもの。」
・・・端にアルクェイドの言ってることがおかしいだけか、いったい何が起きて何が起きようとしないのか。
いや、起きようとしないというのは恐らく私のことだろう。
ライトのスイッチを入れる。
「アルクェイド、意味がわからない。何が起きたって?」
「だから―――ふっ、あはははははっ」
私がそう訊くと突然、アルクェイドは笑い始めた。
指を指して、お腹を押さえて、ゲラゲラと笑う。
「・・・なによ、なに笑って―――」
「き、姫流・・・そ、その頭、あはははははっ」
言われて、右手をそっと頭にやる。
・・・豪快に寝癖がついていた。
私は無言のまま、両手で押さえつけて少し待つ。
アルクェイドの笑いが収まるのを待って、手を離すと―――ピョンとはねた。
「―――ふ、あははははっ」
それを見ていたアルクェイドがまた吹き出した。
目には涙まで浮かべている。
そうか、そんなにおもしろいのか。
中身も見た目も寝起きの頭で、ボウっとそんなことを考えた。
アルクェイドは笑っている。
一分たっぷりと経って頭も醒めて来た頃。
いい加減、いつまでも笑いつづけるアルクェイドにムッとして、
「・・・笑わないで、」
と警告した。
アルクェイドは余程ツボに入ったのだろう。
収まっては笑い出し、収まっては笑い出しとずっと笑い通しだ。
ふぅ、とため息を吐く、警告はしたからね。
「あはははは―――ブッ」
バチンと勢いよく、両手でアルクェイドの顔を挟んだ。
アルクェイドはきょとんとした目で私を見ている。
そして、
「―――笑わないで。」
鋭く睨んで、そう告げる。
「は、はひ・・・」
挟まれたままそう答えてコクコクと頷くアルクェイド。
私は手を離す。
「―――で、何が起きたっていうのよ?」
「ん、あのヒト。」
グニグニと頬っぺたを馴染ませながらアルクェイドはそう応える。
「あの人って―――」
一人、思い当たる人物を思い出した。
「―――ああ、起きたの?」
「うん」
「・・・あなた、ずっと見てたの?」
当該起きた人物が判明すると同時に新たな疑問。
「だって、寝れないし、姫流の部屋にいると怒るでしょ?」
あたりまえ。
人の寝ているところで騒がれてはたまらないし、黙って寝顔を見られるのもごめんだ。
しかし、アルクェイドは理不尽だといわんばかりの表情でそれをいう。
「だから、他にすることもないし・・・」
なるほど、ホントにずっと見ていたのか。
「・・・暇人。」
「むー、なによ。」
・・・否定はしないらしい。
ベッドから降りて伸びをする。
とにかく、彼が起きたから来いというのがアルクェイドのいいたいことだろう。
まったく、こんな夜中に起こされるなんていい迷惑、別に朝でいいのに・・・
ネムクナイネムクナイと呪詛のように唱えて、部屋を出ようとドアに手をかける。
「・・・あれ、姫流どこいくの?」
「―――っ、どうして欲しいのよ、あなたはっ!?」
―――コンコン
アルクェイドに怒鳴った直後、部屋にノックの音が響いた。
私は一瞬驚いて、ノックの人物を予想する。
「あ、姫流だれか来たよ?」
能天気な吸血鬼をジロリと一瞥してドアを開けた。
「あはー、姫流ちゃん凄い寝癖ですねー」
ドアを開けると予想通り、目の前には琥珀さん。
そう、ここは遠野の屋敷、彼女のテリトリーだ。
どこから現れたって不思議ではないし、
「伏見さんがお目覚めになられたみたいですよ。姫流ちゃんも一緒に行きませんか?」
それに恐らくは言動も筒抜け。
裏の支配者の名は伊達じゃないのだ。
「あ、それから。はい、どうぞ、蒸しタオルです。姫流ちゃんも女の子なんですからお部屋を出る時は寝癖くらい直してくださいね。」
ため息を吐く。
割烹着の悪魔に抜かりはないらしい・・・
夜明け、朝T/了
02/12/14 22:49脱稿