魔狩る朱鷺色 11/月夜T
月明かりの夜
真祖の姫と魔狩る者
相対する者達は
遠く感じる気配を追って―――


11/月夜T


方角は北西、距離はかなりある。
唐突に感じた大きな気配。
あれは、
種類はどうあれ間違いなく―――

「―――アルクェイド、」

いって、私はついさっきまで魔女講義を開いていたアルクェイドに目を向ける。
これほどの気配を感じては、さすがに無視はできない。
せっかく話が核心に触れようとしていたというのに、まったく。

「ええ、残念だけど話は中断ね、」

それはアルクェイドも同じだったようで、
既に射抜くような鋭さで、北西の虚空を睨んでいた。
どこか抜けているように見えてもさすがは真祖、
私に感じられたモノくらい当然のようにわかっているのだろう。

「2キロ・・・ううん、3キロくらいかな。姫流、あっちの方角には?」

気配の先を睨んだままでアルクェイドはそんなことを聞く。
確か、住宅地とも工場地帯ともいえない半端な土地だったはず、
私はそう答えて、自分もその方角に目を向ける。
まず、わかるのはそれが桁外れに化け物じみているということで、
ただ、私の血がそれを伝えるのだ。
共鳴する遠野の血と、
滅せと騒ぐ七夜の血が―――

目を閉じて、ひとつ深呼吸をする。
そして、
それが何かを探るため、私は息を止め、意識の集中を始める。

 風が流れる。
 公園内を舞い落ちる葉の数。
 どこか遠くの水の音。
 駅前を歩く人の気配。
 空から降る月の明かり。

研ぎ澄まされた感覚は周囲の様子を曖昧に感覚化し、選り分けていく。
そして、残されたモノをより具体的に・・・

「―――っは、あ」

だめだ、わからない。
遠過ぎるというのもあるが、なにやら歪んでいる。
いったい、何が起こっているというのか。
概念的な違和感なら今、目の前にいるアルクェイドに肉薄しているかもしれない。
それほどの、存在感。
それほどの、異質感。
―――つまり、異常である。

「アルクェイド、わかる?」

諦めて、横を向いて私がそう聞くと、
アルクェイドは首を振って、だめ、と答える。

「ちょっと遠過ぎる・・・でも、何かな。相当『外れてる』モノなのは間違いないとおもうけど・・・」

その程度は私にも分かっている。
問題なのは誰が何をしているのかで、
しかし、どうやらそれもここからじゃわからないようだ。
まあ、なら、調べに行けばいいか。
私はそう結論して、アルクェイドに声をかけることにする。

「姫流、行くよ―――っ」

と、アルクェイドは地面を蹴って一気に走り出す。
なんというか、思い切り出端を挫かれた。

「―――ちょっと待ちなさいっ」

既に公園を出たアルクェイドを追いかける。
街灯と月明りが照らす夜道。
白い服と金の髪が、残像を残して駆け抜ける。

―――残像?

冗談じゃない。
私だって七夜の血を引いているし、遠野の血だって流れているのだ。
本気で走ればヒトとしての最高水準に位置しているというのに、
アルクェイドのスピードはとてもそういう次元じゃなかった。
どうやら本気で動いているらしく、あっという間に距離が開いていく。
これが、人間と真祖の違いか、
まったく、わかりやすいカタチで見せてくれたものだ。

「こんなの、ついて行けるわけないじゃない。」

私はため息を吐いて、既に見えないアルクェイドの後を追った。


・・・・・


そうして、2キロ程走って私はアルクェイドに追いついた。
私に気付いたアルクェイドは、まだかなり先にあるビルを睨んだまま、

「遅いわよ、姫流。」

なんてことをいう。
これでも私は全力で、それも限界近い速さでここまで来たのだ。
それを遅いというアルクェイドは、それでも余裕で走っていたようで息一つ乱していない。
そこは流石は真祖といたところで、けど、それは人間には無理な話だ。
例え、私が七夜だとしても限界がある。

「あなたが早すぎるのよっ!」

無遠慮なアルクェイドの言葉にむっとした私は少し乱れた呼吸を整えて、文句をいってやる。
アルクェイドはそう? と、ちらりとこっちを見てすぐに前方へ視線を戻した。
まったく、分かっているのだろうか、どうにもマイペースにみえる。
それとも真祖というのはこういうものなのだろうか?

「姫流、わかる?」

私がそんなことを考えていると、アルクェイドは真剣な顔をしてそういった。
それは確認の意味合いが強いようで、
私は視線をアルクェイドから外して、遠くに見えるビルに移す。

なるほど、あれか・・・
ここまできて、やっとあの廃ビルの屋上が中心だということがわかった。
それも、なんとか分かったという感じで、やはり何がそこに在るのかまではわからない。
はっきりと分かることは一つ、

「―――歪んでる。」

ただ、そう私は呟いた。

「そうね、魔術師の結界を何かが無理矢理叩き潰した・・・ううん、塗り替えたって感じかしら。」

アルクェイドはいくよ、とビルに向かって走りだす。
一瞬出遅れたが、私もそれに並んで走る。

ビルまでは500メートル弱、警戒を怠らず、
何があっても反応できるように神経を集中させながら―――



月夜T/了
02/08/11 16:46脱稿


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