魔狩る朱鷺色 10/魔女
抑止力という存在が在る
それは、
世界を存続させるモノ
それは、
ヒトを存続させるモノ


10/魔女


公園の街灯の下、私は記憶の片隅にあった番号へ電話をかけた。
相手は昨日会った伏見銀迩で、正直気乗りはしない。
けど、今はそうもいってられなくて。
まずは呼びつけて、文句におまけをつけて叩き返してあげる。
私はそう、決めたのだ。

「・・・何してるの姫流、電話?」
「ちょっと黙ってて―――」

アルクェイドがこっちを覗き込んでいた。
私はそれを制して、携帯を耳に当てる。
聞きなれた呼び出し音が3回、そこで相手は出た。

『―――はい、誰? 今ちょっと忙しいんだけ―――』
「私よ、姫流。」
『あ、姫流ちゃん? どうしたのデートの―――』
「違うわよっ!」
『・・・残念、ならどう―――』

これだからこいつに電話をするのは嫌なんだ。
怒鳴り声に、こっちを覗き込んでいたアルクェイドが驚いている。
私はナンパ男を遮って短刀直入に用件をいうことにする。

「いいから銀迩、ちょっと出てきなさい。あなたに訊きたいことと言いたいことがあるのよ。」
『え、今はちょっと―――』
「しのごのいわないで、いいから出てきなさいっ!」
『な、何を怒ってるのさ?』
「来れば分かるわよっ、いい? 駅向こうの公園にいるからさっさと―――」

そんな風に電話に怒鳴っていると、アルクェイドが

「ねー姫流、カルシウム足りないの? 牛乳買ってあげようか?」

なんて見当違いなことを言う。
何がカルシウムだ、ばか女。
私はのど元まで来ている文句を胸にしまい。

「あなたは少し黙ってて」

私は念のためそう言って、電話に専念することにした。
親切でいったのにー、なんてアルクェイドはいっているが気にしない。

『―――誰かいるの?』

そう、電話の向こうから声が掛かった。
私は一瞬迷ったけど、隠すことでもないと判断して、

「ええ、それも来たら分かるわよ。」

とだけ言っておく。
どうせ隠したって無駄だろう。
当のアルクェイドは少し離れたところでブーブーと文句をいっていた。

『なるほど、わかった必ず行く。せっかく姫流ちゃんがデートに誘ってくれたんだしね。でも、あと一時間待っててくれないかな?』
「違うっていってるでしょっ!」

ほんと、この性格はなんとかならないものか、
私はデートなんてしないというのに・・・

「・・・って、一時間?」
『うん、待っててね。』
「ちょ、待ちなさい、誰が一時間も―――」

―――切られた。

まったく、何なんだいったい。
一時間?
何だってそんなに待たなきゃならないのよ。

「あ、姫流、終わったの?」

携帯を無造作にポケットに突っ込むのを見たアルクェイドが声をかけてきた。
私はそれをキッと睨みつける。

「う、なに? 姫流、目が怖いよ?」
「カルシウムって―――何?」

えっ、とまったく身に覚えがないという風にアルクェイドは目を丸くする。

「人間ってカルシウムが不足すると怒りっぽくなるんじゃないの? ちがった??」
「だから、誰が怒りっぽいのよっ!」
「え、姫流だけど・・・今も怒ってるじゃない?」
「――――――っ」

・・・確かに、その通り。
今、否定してもまったく説得力はない、か。
私はひとつ深呼吸をして、心を落ちつかせる。
まったく、アルクェイドに言いくるめられるなんて、
なんて不覚。

「コホン―――アルクェイド、話を戻すわよ。」

私は咳払いをしてそう切り換える。

「戻すって、何に?」
「ディのコト、詳しい話、教えてくれない?」

そういうとアルクェイドは一瞬、驚いた表情を見せてから呆れたように口を開く。

「姫流、だからね―――」
「―――いいからっ! 危険なのは分かってる。私のすることじゃないっていうのも、手を引いたって誰も咎めたりしない。だけど、」

アルクェイドの言葉を遮って、私は続ける。

「これはもう決めたこと。たとえ元がなりゆきでも私は結論を下した。それはどうあっても変わらないし、私は変えない。私が私であるために、」

そこで風が吹いて、髪が揺れる。
乱れる髪を放っておいて、私はいう。

「宿命なのよ。私に流れる血、七夜と遠野。魔を狩るモノと魔なるモノの呪縛、それを断ち切ることで私は私を超えられる。だから―――」

そう、それは、文句とは別の問題で、
それが昨晩の結論。
私は真祖狩りを通して私を超える。

「だから、私―――七夜姫流は、ディ・ダークネスを殺す。」

いって、私はアルクェイドを見据える。
アルクェイドは眉を寄せて顔をしかめて、

「つまり、止めないってこと?」

なんてことをいった。
ええ、と頷く私を見たアルクェイドは、むーっと何か考え込んでいる。
しばらくして、ため息混じりにアルクェイドはいった。

「そう、分かった。なら、わたしの知ってることは全部教えてあげる、っていってもさっきのでほとんどなんだけど・・・」

だから姫流から訊いて、とアルクェイドはいう。
質問されたら思い出すものもあるかもしれないしね、なんていっている口調は軽いけど、
その瞳には冗談ではない真面目さが覗える。

「ディが辿りついている可能性については分かったわ。でも、どうして真祖が根源に至ろうなんて考えを、いったい何のために?」

私は疑問に思っていたディの在り方について訊いてみる。
もっとも、アルクェイドにその返答を期待しているわけではない。
どちらかというと自問。
何故、根源より生まれしモノが、根源を目指すのか。
その在り方は、私には何処か滑稽にみえる。
あるいはそれは、回帰衝動。
生まれたのが根源からなら、目指すのも根源。
なら最初から生まれる必要など何処にもないのではないか。

―――予想に反して、アルクェイドはそれに応えた。

「そうね、長くなるけど、いい?」
「ええ、時間はあるわよ。」

そういって、私はアルクェイドを促す。

「姫流、ひとつ訊くけど。あなた、魔術をどういうモノだと認識してる?」
「どういうモノって、魔術師が魔法へ至るために積み重ねるモノじゃないの? 魔法は現代の人類が実現不可能なモノ、魔術はそれ以下の神秘、常識の代用品。」

私は以前に聞いたことをそのまま答えて、
その時に気付いたことを付け加える。

「現代の人類が実現不可能なコトっていうことはつまり、かつては魔法だったものも現代では魔術と呼ばれている。」
「そうね、大体その通り。」

アルクェイドはうんうん、と頷いて

「なら、考えたことはない? 最初の魔法はどこから来たのか、って。」

私は言われて気がついた。
確かにその通り、どこかには最初の魔法というモノがあったはずだ。
魔法、そして現代に及ぶ魔術の雛型ともいえるそれは何処から来たものなのか。

「うん、まあ、普通はそこまで知らないのかな。」

考え込んでいる私をみてアルクェイドはいう。

「いい? 魔法っていうのは『魔女』の遺品なの。」
「・・・魔女って、箒に乗って黒い服を着たアレ?」
「ううん、この場合の魔女っていうのは種族としての『魔女』のこと。」

んー、と考えてアルクェイドは説明する。

「わたしたち真祖は、簡単にいうと世界の抑止力の具現なの。世界の抑止力っていうのは世界の存続を最優先に、世界を死に至らしめる要因を排除する。」

その為には人類がどうなろうと構わないという考え方ね、とアルクェイドは付け加えた。

「それとは別に、霊長の抑止力っていうのがあって、これは霊長を滅ぼしうる要因を排除する。つまり、これの具現が『魔女』なのよ。」

それを聞いて私は気付いた。

「世界から真祖が生まれたから、それに対する存在として、人類が生み出したモノってこと?」
「人類じゃなくて、霊長ね。たまたま人類が一番繁栄しているから人型を模して真祖が生まれたし、人類から『魔女』が生まれた。
まあ、対する存在っていうのに間違いはないわ、『魔女』っていうのはね、世界の抑止力から霊長を守るべく生まれた存在なのよ。」

―――まて、

「だから、やりようによっては真祖の打倒も可能かもしれないわね。『魔女』の魔法が直接干渉できないのは対立する世界の眷属だけ。考えようによっては空想具現化より優れているかもしれない。
まあ、その『魔女』も中世に滅んでいるのよね、だから最初の魔法は『魔女』の遺品、」

私はつい最近、『魔女』という言葉をどこかで聞かなかったか?

「その最初の魔法を追い、辿るのが魔術師ってことね。」

魔法の雛型を扱う『魔女』に、

「それで、ディが魔術師を狙って、魔法を目指す理由なんだけど・・・」

自身を『魔女』だと称する男に―――


 その時、遠くで何か、大きな気配がした。



魔女/了
02/07/28 18:47 脱稿


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