魔狩る朱鷺色 07/闇の噂
曰く、闇色の真祖とは、
曰く、禁忌の存在らしい。
魔術を超え魔法に辿りつき、
根源より根源に至る。
その在り方は、
白い吸血姫さえ危ぶむ程に。


7/闇の噂


「ねー姫流、」
「・・・なに?」
「あのさ、手紙の中身・・・気にならないの?」
「ええ、特に気にならないわね。」

琥珀さんと別れて遠野の屋敷から出た時には既に日も沈んでいた。
夕食は宣言どおりご馳走で、なるほど、あの時のアルクェイドの言葉は冗談じゃなく嬉しかったのだろう。
三人で囲んだ夕食は、テーブル一杯に並んだ料理とワインを筆頭にビール、ウイスキー、ブランデーなどなど、パーティーさながらで行われた。
それでも夕食が思ったより早く終わったのは、一番はしゃぐと思っていたアルクェイドが、思ったより静かだったからだろう。

「アルクェイドさん静かですねー」

なんて耳打ちしてきた琥珀さんは、代わりに騒ぎましょうとでもいうようにアルコールを勧めてきた。
結果、私はかなり飲まされたというわけで、少し頭がクラクラする。

夕方、志貴おじいちゃんの部屋で見つかった手紙。
その場で開けようとしたアルクェイドを制した琥珀さんは、

「姫流ちゃん、お料理手伝ってくれませんか?」

といって私を連れて部屋を出た。
アルクェイドは気にしていないようだったけど、宛名の書いてある手紙。
それに対する琥珀さんの配慮でアルクェイドは部屋に残されたのだ。
そうして料理を作っている間ずっと、琥珀さんが落ちつかない様子で繰り返していたのは、

「姫流ちゃん、あの手紙。なに書いてあるんでしょうね?」
「あんな手紙があったんて知りませんでした。姫流ちゃん、よく気付きましたねー」
「やっぱり見せてもらえば良かったでしょうか・・・」

なんてことで、つまり興味津々だったらしい。
アルクェイドが戻って来てからも琥珀さんは先の手前か聞き出すことはせず、
アルクェイドはアルクェイドでどこか挙動不審、たぶん聞かれるのを待っていたのだと思う。
そして、私は当然のように聞かない。
そんなおかしな空気の中で夕食のミニパーティーは始まった。

―――そして帰り道の坂も下りきった頃、アルクェイドはそう聞いてきた。
よほど聞かれたかったのだろう、アルクェイドは私の返事にがっくりとうなだれている。

「あの手紙はアルクェイド、あなた宛てだったんでしょう? なら私が気にしてもしかたがないじゃない。」
「それはそう、わたし宛てだったわよ。だけど・・・」
「だけど?」
「聞くのが礼儀ってものじゃないのかなって」
「そんな礼儀、聞いたことないわよ。」

まったく、どんな礼儀よ・・・
呆れていう私をアルクェイドはむー、と不満そうに見つめていた。
だけど、私は気にせず歩く。

「・・・・・・。」

街灯が照らすアルクェイドの髪は金色に輝いて、
白い服が夜の闇に浮かんで、

「・・・・・・。」

私を見つめる赤い瞳と、
不満そうなその表情。

「・・・・・・。」

アルクェイドは目の前を歩いている。
それもこっちをジーっと見つめながら後ろ向きで・・・

「・・・なによ。」

五分ほど歩いて、根負けした私は沈黙を破る。
ほっとくといつまでもこのままだと思ったのだ。
とたんアルクェイドは満面の笑顔で、

「あ、気になって来た?」

なんていう。
なんていうか、もしかしてコイツはすごく分かり易い奴なのかもしれない。
絶対譲れないという訳でもないので、私は訊いてみる。

「はあ、分かったわよ。・・・で、何が書いてあったの?」
「えへへー、秘密。」

数秒の間、

―――秘密?

さんざん聞けといって、聞いたら聞いたで秘密?
一体なにを考えているのか、この女は・・・

―――もう、いい。

私はアルクェイドをかわして歩きだす。

「あ、姫流、待って―――」

慌てたアルクェイドは走って私の前に出て、ブンブンと顔の前で手を振っている。

「違う違う、そうじゃなくて・・・」
「なにが違うのよ、ばか女っ!」

キッとアルクェイドを睨みつける。

「ばっ───ばか女って、」
「ばかをばかって言ったのよ。聞け聞けといって、聞いたら秘密?―――からかうなら他をあたりなさい。私はそんなに暇じゃないわよっ!」
「え───あ、う?」

まったく、ばかばかしい。
これだから自分の主義を曲げるものじゃない。
最初から放っておけば良かったのだ―――

「ち、ちが・・・そうじゃな―――」
「なによ、反論があるならいってみなさいっ!」
「う、あ、あのね、からかったわけじゃないのよ? その、手紙にね、2つのことが書いてあって、1つは言えないけど、もう1つの方は言えるのよ。」

私の剣幕に圧されてかアルクェイドはシドロモドロに続ける。

「あのね、要約すると姫流を手伝ってあげてって・・・」
「―――は?」

―――姫流を手伝ってあげて?

何のことだろう。
私を手伝う?
それが手紙の中に書かれていた?
あの手紙の色褪せた様子、何十年も経っているように見えた。
当然、私は生まれてもいない。

「何いってるのよ、そんなはずあるわけないじゃない。あの手紙、どうみたって私が生まれるより前のものよ?」

アルクェイドの突飛な言葉に私は呆れて、
そして、今度こそ興味をもって、そう言った。

「んー、だから・・・」

アルクェイドはどういったものかと、眉を寄せて唸る。

「わたしね、あの時の件で吸血衝動が抑えられなくなって眠りについたんだけど・・・って、ここまではもう言ったわね。それで最後に志貴とお別れの挨拶をしたの。」
「・・・それで?」
「うん、笑顔でお別れしたけど正直わたしも苦渋の決断だったのよ、あのままじゃ志貴に迷惑かけるし仕方なかった。」

哀しそうに笑ってアルクェイドは続ける。

「それは志貴も同じだったみたい、自分の血を吸えとも言った。でもわたしは吸わなくて、志貴は志貴のままでいて欲しかったから―――」

アルクェイドが歩き始めたので私もそれに続く。

「―――でも、志貴は。それでも、わたしの吸血衝動が抑えられるようになるのを待っててくれたみたい。そう書いてあった。」

うれしかった、とアルクェイドは微笑む。

「それでね、もし自分が死んでて、会えなかったら―――」

そこで意味ありげに笑って、

「―――姫流の手伝いをしろ、って!」
「・・・どうして、そこでそう繋がるのよ?」

まったく、わけがわからない。
真面目な話しをしてるのかと思ったら、これだ。
アルクェイドはあはははは、と笑って意味もなく楽しそうにしている。
私はもう何度目かも分からないため息を吐いて、呆れ果てていった。
人と話しをしてこんなに疲れるのは始めて、
・・・ってヒトじゃないけど。

「ちょっと、そこの部分読んでみなさいよ。」
「ええー? いいじゃない、わたしは姫流が気に入ったの。だから、手伝ってあげたい。きっと、役に立つとおもうわよ?」

志貴に似てるしね、なんていってアルクェイドはくるりと後ろを向いた。
どうやら手紙は読みたくないらしい。

「―――いらない。」

私は即答する。
こんなばか女が役に立つとは思えないのだ。

「むっ、姫流のいじわる。手伝わせてくれたっていいじゃない。」
「・・・だいたい手伝うって何を手伝うつもりよ。」
「何をって、姫流、死徒狩りしてるんじゃないの??」
「ええ、だけど手伝いなんていら―――」

―――あった、

色々あって忘れていたがひとつの依頼を思い出した。
それも飛び切り厄介な真祖狩り。
たしかに、役に立つかもしれないわね・・・

「姫流?」
「アルクェイド、他の真祖の位置ってわかる?」

はぐれ真祖ディ・ダークネス。
存在が嘯かれるその真祖は、未だ場所の特定すら為されていないのだ。
真祖の処刑人たる彼女ならあるいは・・・

「他の真祖って・・・わたしが把握している真祖はもう全て滅ぼしたはずだけど?」
「全て?」
「正確にはほとんど、かな。数は少ないけど、根城を持たない上に所在情報の皆無な真祖もいないわけじゃなかった。そういう真祖ほど隠すのが上手いから、わたしが真祖狩りをした頃から完全に気配も消してるはずよ。」

アルクェイドは真面目な顔をしてそんな説明をする。

「なに? 姫流、あなた死徒じゃなくて真祖を相手にするつもりなの?」
「うーん、まあ成り行きで、ね。『ディ』って聞いたことない?」

私は昨日の実家でのやりとりを思い出していう。
成り行きには違わないだろう。

「・・・ディ、って―――闇色の支配者、ディ・ダークネス!?」

まあ、私でも知っているんだ。
真祖の姫であるアルクェイドが知らないはずもないだろう。
私らしくない愚問だったかな。

「あ、やっぱり知って―――」

いいながらアルクェイドを見ると、

「―――やめなさい。いい? 絶対に手を出したりしないで―――殺されるわよ、間違いなく。」

そう厳しい顔で言われた。
その瞳は先の戦闘で見せた以上に真剣で、
不覚にも私は気圧された。

「・・・そ、んなになの?」
「ええ、危険過ぎる。あいつはね、真祖でありながら魔法使い一歩手前の大魔術師。
いえ、あの頃で既にそうだったんだから、今なら魔法の二つや三つ間違いなく辿りついてるでしょうね。」

凶った瞳でアルクェイドは続ける。

「真祖としての能力だけなら中の上ってところだけど、そこに魔法なんか加わったら・・・わたしだって勝てるかわからない。」
「―――そんな真祖を埋葬機関が野放しのままにしているの?」

当然の疑問だ。
何故そんな化け物が野放しにされるのか。

「埋葬機関でも忌避される存在よ。あいつが血を吸うのは魔術師だけで普通の人からは吸わないから放っているって言ってるみたいだけど、まあ、建前ね、実際には手を出せないだけ。・・・協会には笑い事じゃないでしょうけど。」
「――――――っ」

銀迩のやつ、なにが『教会は動いてくれそうにない。』だ。
アルクェイドでさえ勝てるか分からない相手にどうして埋葬機関が動くものか、
それは『動いてくれそうにない』じゃなくて『動けない』じゃないか・・・
それに既に魔法に辿りついている?
魔法と魔術じゃ次元が違う。
私は文句をいいたくなって、
躊躇うことなく携帯のナンバーを押した。



闇の噂/了
02/06/30 16:03脱稿


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